私たちを取り巻く環境や⽣活の速さは、この数⼗年で⼤きく変わりました。けれども、⼈間の体の基本的な仕組みや、季節、気温、⾷事、睡眠、感情などの影響を受けながら
⽣きていることは、昔も今も⼤きくは変わりません。
中医学は、数千年にわたり⼈の体を観察し、⾃然との関係の中で、体に起こる変化を捉えてきた医
学です。
その考え⽅を⾷事に⽣かしたものが、中医営養薬膳学です。
薬膳では、同じ⾷材や同じ料理が、すべての⼈に同じように良いとは考えません。季節、年齢、体
質、その⽇の体調によって、必要なものは変わります。
冷えているのか、熱がこもっているのか。
不⾜しているのか、余分なものがたまっているのか。
胃腸が疲れているのか、⼼や体を使いすぎているのか。
こうした体からの⼩さな知らせを受け取り、⾷べるものや暮らし⽅を調整していきます。
薬膳や養⽣は、いつもすぐに⽬に⾒える結果が現れるものではありません。薬を飲んだときのよう
な、はっきりとした変化を感じにくいこともあります。
それでも続けていると、
「以前より疲れにくくなった」
「季節の変わり⽬に体調を崩しにくくなった」
「眠りやお腹の調⼦が少しずつ整ってきた」
というような、穏やかな変化に気づくことがあります。
現代は、速さや効率、わかりやすい結果が求められる時代です。時間をかけて体を観察し、少しず
つ整えていく中医学の考え⽅は、今の時代には遠回りに⾒えるかもしれません。
けれども、医学が進歩した今も、私たちの体には、まだ⼗分に解明されていないことがたくさんあ
ります。
中医学は、現代医学と同じ⽅法で体を⾒るものではありません。また、現代医学に代わるものでも
ありません。
精密な検査によって病気を⾒つけ、治療する現代医学が必要な場⾯があります。同時に、まだ病気
とはいえない⼩さな不調や、季節や体質によって繰り返す変化を、体全体から考える中医学の視点
が役⽴つこともあります。中医学は、⻑い歴史の中で整理され、受け継がれてきた、⼀つの体系を持つ医学です。現代医学と
は異なる⾓度から⼈の体を⾒つめる、数少ない⽅法の⼀つだと私は感じています。
⽇本で「薬膳」という⾔葉が広がる中で、本来の中医学とは少し異なる形の薬膳も⽣まれました。
⾒た⽬の美しい料理、体に良さそうな⾷材を使った料理、季節を楽しむ料理。それらは厳密には中
医営養薬膳学に基づく薬膳とは違う場合もあります。
けれども、それをきっかけに⾷事を⼤切にし、⾃分の体を気遣い、少しでも健康に近づくことがで
きるのであれば、それにも意味があると私は思っています。
その上で私は、中医学を基礎とする薬膳が、どのように⼈の体を⾒て、なぜその⾷材を選ぶのかと
いう、本来の理論も丁寧に伝えていきたいと思っています。
季節の⾊を⾒て、⾷材の⾹りを感じ、体の⼩さな変化に⽿を澄ませる。
薬膳を学ぶことは、⾃分の体を知ることであり、⾃分⾃⾝と向き合うことでもあります。
毎⽇を完璧に整える必要はありません。
今⽇の⾃分に気づき、できることを⼀つ選ぶ。
薬膳が、そのための静かで優しい知恵になればと願っています。